先日ニュースで「高所平気症」という言葉を目にした。ベランダなどからの子どもの転落事故を扱った特集で、高層マンションで育った子どもに高さについての恐怖心が薄い傾向があることをその様に表現していた。
一般に、ある傾向を持つ集団が社会現象となったときに、「◯◯症候群」と言われることがある。流行語みたいなものなので別にどうでも良いが、それを医者が医者の立場で言うと意味が違ってくる。
医学的に「症候群」と言うのは、複数の症状がセットで出現し、(原因が明らかでなくても)偶然でなくひとつの原因で説明されうる(と考えられる)場合である。例えば、知的障害、先天性心疾患、特異的顔貌、低身長などの共通の特徴を生まれつき併せ持った「症候群」をイギリスのダウン医師が報告し、後に21番染色体のトリソミーが原因であることが判明したダウン症などは有名だ。
「症候群」を提唱するのには恐らく甘い誘惑があり、とりあえず気付いた時言っておけば、後に病名として確立されたときに「○○先生が最初に報告した…」と歴史に名が残る。上記のダウン先生然り、川崎病*1の川崎富作先生然り。
心理学者が言う「ピーターパン症候群」や「青い鳥症候群」などは微妙なケースで、既に定着してしまった感もあるが、あくまで社会現象に名前を付けたものと認知されている。一方、「○○という症状がある人は△△症候群」と医者が言ってしまうと、それが「病名」になってしまう可能性がある。
気になったのは、「高所平気症」とか言ってるのが評論家などでなく織田某という医者である点だ。これを次々とやられると、でっち上げの「病名」が、都合よく「患者」たることを保証することにならないか心配である*2。
「私は青い鳥症候群だから仕事が続かないのは病気のせい(だから公的に援助すべし)」「うちの子は高所平気症だから、落ちたら怪我をする様な場所があるのが悪い」…。こんな話がネタであり続けることを切に望む*3。
*1:別名、小児急性熱性皮膚粘膜リンパ節症候群。
*2:何十軒もドクターショッピングをした果てに「線維筋痛症」とか病名つけてもらって安住する人々の話とも少し似ている。
*3:これと似た様な話が、学校教育界隈ではモンスター某という形で現実に起きている様であるが。